定期健康診断の事後措置について

学校耳鼻咽喉科医部会 部会長 朝比奈 紀彦



 児童生徒の健康診断は、学校保健安全法第13条第1項に「学校において毎学年定期に、児童生徒等(通信による教育を受ける学生を除く。)の健康診断を行わなければならない。」と定義され、耳鼻咽喉科関連では学校保健安全法施行規則により「聴力」と「耳鼻咽頭疾患の有無」が検査項目として定められています。更に学校保健安全法第14条で「学校においては、前条の健康診断の結果に基づき、疾病の予防処置を行い、又は治療を指示し、並びに運動及び作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない。」とされています。健康診断の事後措置とは「疾病の予防措置」「医療・検査・予防接種などを受けるための適切な指示」「保健指導」などを指しますが、十分な事後措置が行われているとは言い難いのが現状です。
 学校耳鼻咽喉科医部会では横浜市耳鼻咽喉科医会学校保健委員会の協力の下、定期健康診断の事後措置について検討を重ねています。
【事後措置のあるべき姿と現状】
 日本耳鼻咽喉科学会学校保健委員会では、事後措置のあるべき姿として、①児童生徒およびその保護者に対し、健康診断結果(所見の有無)を速やかに通知する②所見についての情報を適正に提供する③保護者は、所見を充分理解した上で通知書の指示に従う④医療機関を受診した児童生徒の保護者は、そこで得た情報を保護者の責任において学校に報告する⑤報告書を参考にして、家庭および学校は生徒・児童の健康管理および保健指導を行う…この5項目を提言しています。
 横浜市の耳鼻咽喉科学校医を対象としたアンケート調査(平成20年実施)によれば、適切な事後措置を行っている学校医は6割に留まり、「健康診断の結果通知を学校側に任せている」学校医も2割以上いました。すべての耳鼻咽喉科学校医に対し、事後措置を行うことは学校医の責務であることを改めて認識させる必要性を感じたと同時に、健康診断の所見に対する指示が児童生徒および保護者に正しく理解されるように所見の知識と理解について啓発すること、そして養護教諭をはじめとした学校側も耳鼻咽喉科疾患に関する知識と理解を深めるべきであることを再確認しました。
【健康手帳の活用】
 健康手帳は児童生徒が自身の健康を管理する力を育むためのツールとして成長と健康の記録をしていき、健康に対する意識を高めるとともに学校と家庭における健康教育に活用することを目的に配布されています。特に横浜市学校保健会編集の健康手帳は他の自治体からも高く評価されています。この度平成22年度の健康手帳大改訂作業に合わせ、耳鼻咽喉科の内容を全面的に改編しました。耳鼻咽喉科領域について少しでも関心をもつことを期待し、みみ・はな・のどの働きの説明、そして学校生活において重要な耳鼻咽喉科疾患について写真を交えて解説してあります。健康手帳は学校内で厳重に保管されているところが多く、実際に児童生徒や保護者の手元にある期間は少ないと聞いていますが、是非とも一読したうえで健康管理と保健指導の参考にしていただきたいと思います。
【耳鼻咽喉科所見名の解説について】
 前述したとおり、学校医は健康診断の所見について学校側と保護者に適正に情報提供する責務があります。
 学校側、特に健康管理と保健指導に直接関わりのある養護教諭が耳鼻咽喉科疾患(所見)について理解していなければ、適切な保健指導はできません。今まで以上に積極的に耳鼻咽喉科学校医から情報を得る努力をすべきと考えます。学校内での講話・講演依頼や保健だよりへの執筆依頼など手段は多々ありますし、われわれ耳鼻咽喉科学校医も要望を拒む権利はありませんので、遠慮は無用です。
 健康診断結果は「受診のおすすめ」という形式で保護者に通知されますが、横浜市では平成16年度より受診報告書が医師の病名記入と印鑑を必要としない書式に改められました。その結果、専門医療機関受診の判断は今まで以上に保護者に委ねられることとなりましたが、保護者が児童生徒の健康診断結果(所見)について理解できなければ受診の必要性を認識することは困難です。横浜市立小学校26校を対象とした調査では、受診報告書の提出率つまり「受診のおすすめ」に従って専門医療機関を受診した割合は54.8%に留まっています。耳鼻咽喉科学校医と学校側(養護教諭)が保護者に対して所見を正しく認識させ、専門医療機関受診の必要性を理解させることが必須であると思われます。
 そこで横浜市耳鼻咽喉科医会学校保健委員会では、「受診のおすすめ」とともに耳鼻咽喉科所見名の解説文を添えて保護者に通知することを検討しました。教育委員会や校長部会、養護教諭部会と協議した結果、平成25年度の定期健康診断から実施することになりました。保護者は解説文を読み、自分の児童生徒の所見を充分理解し、納得した上で「受診のおすすめ」の指示に従うことができると期待しています。